――――――久しぶりに神を呪いたくなった。



 ひとりずつならまだいい女どもが、よりによって同じ日同じ時にこぞってやってきやがった。

「素ちゃん、わたし素ちゃんのためにケーキ焼いてきたの、食べて食べてっ」

「素子、これあたしの焼いたケーキ。おすそわけだよ、食べて食べてっ」

 しかも、そろいにそろって同じ用件ときたもんだ。

さらには、あたしが返事するより早く、目の前でいがみ合いを始めやがった。

「てめーら、いい加減にしねーと窓から放り出すぞ、おらっ!!

 半分キレかけて怒鳴ったら何とか止まったけど……どうにかなんねーかな、この馬鹿女ども。

ああもう、何であたしの周りにはこんなめんどくせえ女が集ってくるんだよ。八木先輩とか及川先輩とか藤原先輩たちみたいな可愛いのだったら、めいっぱい可愛がってやんのによ。

 そんなことを考えながら、ぼーっと視線を漂わせていたあたしの視界に、向かい側に並んで座っていた可菜子と友里の脇にあった、それぞれ別の包みが飛び込んできた。

「…なんだ? おまえら、その包み」

 何の気なしに言ったとたん、それまではふんぞり返っていたヤツらがとたんに狼狽し始めて。

「こ、これは、同じクラスの友達に持ってくおすそわけよっ」

「こ、これは、いつもお世話になってる人に持ってくおすそわけだよっ」

 あからさまに言い訳くさい返事を返してきた。ふーん? 

そのうち気が済んだのか、ヤツらはふたりそろって帰っていったっつーか、あたしの堪忍袋の緒が切れそうなことに気づいたのか、そそくさとうちを後にした。その後、どこの誰のとこに寄っていくのかなんて知らねえけど。

「ま、好きにやってくれよ」

 あいつらが何を言おうが何をしようが、とことん受け容れるような物好きな男がいるのも事実だしな。あんな女どものどこがいいんだか知らねえけどよ。

 あー、ヤツらに半分無理矢理ケーキを口に詰め込まれたせいで―――――あたしに喰わせる順番でもめて、ふたり同時に突っ込んできやがったんだよっ あたしの口はひとつしかねえっての!―――――口の中が甘ったるい。ブラックコーヒーでも飲んで、スッキリさせるかと思ったとたん、一階にいたばばあメイドの一人がデカい声で叫んできた。

「素子お嬢さまー、またお客さんですよー」

 …客? うちにわざわざやってくるようなヤツなんて、他に誰が…と思いながら階段を下りていったあたしの前に現れたのは、牛乳瓶の底のようなメガネをかけたチビ……。

「かっ 神楽坂さん、ぼくケーキ焼いてきたんです、美味しくないかも知れませんけど、食べてもらえますかっ!?

 ………あたしの中で、何かが切れる音が聞こえた気がした。




――――――恋だか愛だか知らねえけども。しばらくは、ケーキなんざ見たくも食いたくもねえっっ





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